はじめに
障害を持つ方にとって、生活の維持と安定は大きな課題です。その中で、障害年金は重要な支援制度として位置づけられています。
しかし、「どのように申請すれば良いのか」 「どんな条件が必要なのか」といった疑問を抱える方も多いのではないでしょうか。
この記事では、障害年金制度の概要から具体的な申請方法までを解説していきます。障害年金について一緒に理解を深めていきましょう。
障害年金とは
障害年金とは、1961年に国民年金制度の一環として導入された、公的年金制度の一つです。
この制度は、病気や怪我により障害を持つことになった方が、日常生活や労働が困難な場合に経済的支援を受けることを目的としています。
国民年金および厚生年金の加入者が対象で、障害の程度に応じて支給額が異なります。
また、障害年金は障害を発症し病院へ掛かった初診日が成人未満か成人以降か(保険料を納めていたか)で受給条件に制約がかかります。
詳しくは以下の記事を確認してください。
siro-tobyo.hatenablog.jp
障害年金の等級の違い
障害年金には、障害の程度に応じた等級があります。
等級ごとに支給される年金額が異なるため、自分がどの等級に該当するかを理解しておくことが肝心です。
等級 | 概要 | 該当例 |
---|---|---|
1級 | 日常生活全般にわたって介護が必要な状態。 | 食事や入浴、着替えなど、ほぼ全ての生活において他人のサポートが必要な場合。 |
2級 | 日常生活に著しい制限がある状態。自立した生活が難しく、日常的な活動において他人の援助が必要な場合。 | 食事の準備や掃除など、日常の一部の活動が困難な場合。 |
3級 | 労働が著しく制限される状態。通常の仕事を続けることが難しいが、簡単な作業や短時間の労働は可能な場合。 | 体力的な負担の大きい作業はできないが、デスクワークなど負担が軽い作業であれば可能な場合。 |
障害厚生年金と障害基礎年金の違い
障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」があります。以下では、それぞれの違いを詳しく見ていきましょう。
障害基礎年金
どんな人が対象なのか
障害基礎年金は、自営業者、学生、専業主婦など、国民年金に加入している方が対象となります。
支給内容
障害基礎年金は、1級および2級の障害状態にある方に支給されます。支給額は等級に応じて固定されており、2023年現在の基準で以下の通りです。
等級 | 支給内容 | 該当する障害状態 |
---|---|---|
1級 | 年間約97万2,000円 (月額約8万1,000円) |
日常生活全般にわたって介護が必要な状態 |
2級 | 年間約77万7,800円 (月額約6万4,800円) |
日常生活に著しい制限があり、一部日常生活に援助が必要な状態 |
- 1級は、障害の程度が重く、日常生活の全般において介護が必要な場合に該当します。
- 支給額は2級の1.25倍で計算されます。
- 2級は、日常生活に著しい制限があり、常時の介護は必要ないが、一部日常生活に援助が必要な場合に該当します。
- また、子供1人につき年間約22万4,900円(第2子以降は1人あたり約7万4,900円)が加算されます。
障害厚生年金
どんな人が対象なのか
障害厚生年金は、会社員や公務員など、厚生年金に加入している方が対象です。国民年金の対象者に比べて、支給内容がより多様で、1級から3級までの障害状態に応じて支給されます。
支給内容
障害厚生年金は、障害の程度に応じて、報酬比例の年金額に基づいて支給されます。また、障害基礎年金が支給される1級および2級の障害状態にある方には、基礎年金の額に加えて、厚生年金の分が支給されます。以下に、2023年現在の支給額の具体例を示します。
等級 | 支給内容 | 該当する障害状態 |
---|---|---|
1級 | 報酬比例の年金額 × 1.25 + 障害基礎年金1級分 |
日常生活全般にわたって介護が必要な状態 |
2級 | 報酬比例の年金額 + 障害基礎年金2級分 |
日常生活に著しい制限があり、一部日常生活に援助が必要な状態 |
3級 | 報酬比例の年金額 (最低保障額:年間約58万円) |
労働が著しく制限される状態 |
- 1級の支給額は、報酬比例の年金額の1.25倍に相当し、障害基礎年金の支給額が加算されます。
- 報酬比例の年金額は、加入期間中の標準報酬月額に基づいて計算されます。
- 2級の支給額は、報酬比例の年金額に障害基礎年金の支給額が加算されます。
- 3級は、報酬比例の年金額のみが加算されます。障害基礎年金は加算されませんが、最低保障額として年間約58万円が加算されます。
- 3級の障害状態は、通常の仕事を続けることが困難ですが、簡単な作業や短時間の労働は可能な場合に該当します。
- また、3級に該当しない軽度の障害でも、労働能力が低下した場合には、一時金として「障害手当金」が支給されることがあります。障害手当金は、一時金として報酬比例の年金額の2年分が支給されます。
申請方法
障害年金の申請は、以下のステップで進めます。
書類の用意・記入
まず自分がどの年金に該当するのかを確認し、申請に必要な複数の書類を用意します。
これは障害年金申請の基本でもあり最重要な手順になります。ここで漏れがないように細心のチェックを払いましょう。
以下が必要な書類の一覧です。
障害基礎年金の申請に必要な書類
障害基礎年金:国民年金に加入している方が対象。必要な書類には「年金請求書(国民年金・厚生年金保険障害給付)」「診断書(国民年金用)」などが含まれます。
書類名 | 説明 | 入手先 | だれが書く |
---|---|---|---|
年金請求書 (国民年金・厚生年金保険障害給付) |
障害基礎年金の受給を申請するための公式書類。様式第104号を使用。 | 年金事務所 または日本年金機構のWebサイト |
申請者本人 または代理人 |
診断書 (国民年金用) |
障害の状態を証明するための医師の診断書。障害認定日より3カ月以内の現症のもの。 | 現在通院している医療機関 | 担当医師 |
病歴・就労状況等申立書 | 障害の原因となった病気や怪我の経緯、治療の経過、現在の症状、就労状況などを記載する書類。 初診の病院と現在通院している病院が異なる場合に必要。 |
年金事務所 または日本年金機構のWebサイト |
申請者本人 または代理人 |
年金手帳 または基礎年金番号通知書 |
年金の加入状況を確認するために必要な書類。 | 年金事務所 または市区町村の窓口 |
申請者本人 |
初診日の 証明書類 |
初診日の確認ができる書類 (診療記録、紹介状、カルテなど)。 |
初診を受けた病院 | 初診を受けた病院の医師 または担当者 |
受取先金融機関の 通帳等 |
口座情報を確認するための書類 (預金通帳またはキャッシュカードのコピーなど)。 |
受取金融機関 | 申請者本人 |
障害厚生年金の申請に必要な書類
障害厚生年金:厚生年金に加入している方が対象。必要な書類には「年金請求書(国民年金・厚生年金保険障害給付)」「診断書(厚生年金用)」および「加入期間の確認書類」が含まれます。
書類名 | 説明 | 入手先 | だれが書く |
---|---|---|---|
年金請求書 (国民年金・厚生年金保険障害給付) |
障害厚生年金の受給を申請するための公式書類。様式第104号を使用。 | 年金事務所 または日本年金機構のWebサイト |
申請者本人 または代理人 |
診断書 (厚生年金用) |
障害の状態を証明するための医師の診断書。障害認定日より3カ月以内の現症のもの。 | 現在通院している医療機関 | 担当医師 |
病歴・就労状況等申立書 | 障害の原因となった病気や怪我の経緯、治療の経過、現在の症状、就労状況などを記載する書類。 初診の病院と現在通院している病院が異なる場合に必要。 |
年金事務所 または日本年金機構のWebサイト |
申請者本人 または代理人 |
年金手帳 基礎年金番号通知書 |
年金の加入状況を確認するために必要な書類。 | 年金事務所 または市区町村の窓口 |
申請者本人 |
初診日の 証明書類 |
初診日の確認ができる書類 (診療記録、紹介状、カルテなど) |
初診を受けた病院 | 初診を受けた病院の医師 または担当者 |
加入期間の 確認書類 |
厚生年金の加入期間を確認するための書類 (給与明細、社会保険料の納付記録など) |
勤務先 または社会保険事務所 |
申請者本人 または勤務先 |
受取先金融機関の 通帳等 |
受給者の口座情報を確認するための書類 (預金通帳またはキャッシュカードのコピーなど) |
受取金融機関 | 申請者本人 |
申請(書類の提出)
必要な書類をとりまとめて年金事務所に提出します。
提出は直接事務所に伺い提出するか、郵送でも可能です。
結果
申請が通った場合、ご自宅に年金決定通知書(年金証書)が届きます。
申請が通らなかった場合、ご自宅に不支給決定通知書が届きます。この場合、不服申し立て制度を利用して再審査を要求するか、再び書類をとりまとめて再申請するかの選択があります。
申請時に気をつけるポイント
障害年金の申請時には、以下のポイントに注意することが大切です。
- 正確な初診日の証明:初診日の証明が重要です。誤った日付が記載されると申請が遅れる可能性があります。
- 診断書の詳細記入:診断書には障害の状態を詳細に記載してもらう必要があります。不足があると審査が不利になる可能性があります。
- 提出書類の確認:提出前に全ての書類が揃っているかを確認すること。書類の不足や記載ミスがあると、申請が受理されないことがあります。
初診日の証明ができない場合
初診日の証明ができない場合には、以下の方法を検討してください。
- 医療機関に確認:最初に受診した医療機関に連絡し、記録が残っていないか確認します。
- 他の証拠を提出:診療明細書や薬の処方箋など、初診日を示す他の証拠を提出します。
- 第三者の証言:家族や友人など、初診日に立ち会った第三者の証言を提出します。
社会倫理から見た注意点
障害年金の使用方法については、個人の自由と公共の福祉のバランスが重要です。
受給者が生活支援として利用することが期待されていますが、場合によっては社会的な批判を受けることもあります。適切な使用が求められます。
今後の改正について
2025年には障害年金制度の改正が予定されています。
主な改正内容として、新規受給者に対する障害厚生年金の延長保護や長期要件の見直しが含まれ、退職後も一定期間内であれば障害年金の受給が可能になる措置が検討されています。
まとめ
障害年金は、障害を持つ方々が生活を維持するための重要な支援制度です。
申請方法や支給額は明確に定められており、今後の制度改正によってさらに支援が充実することが期待されています。適切な知識と準備をもって、障害年金を有効に活用しましょう。
参考文献
- 障害年金制度の見直しについて(厚生労働省)
- 障害年金制度の仕組みと論点(社会保険研究所)
- 障害年金の歴史年表(全国障害年金パートナーズ)
- 障害年金 - Wikipedia
- 障害年金をめぐる政策課題
- 年金制度の仕組みと考え方第4公的年金制度の歴史
- 年金制度の理念と構造 ~課題と将来像 第12回 障害年金の仕組みと課題(日本総合研究所)
Q & A
診断書を医師に断られた場合の対処方法
初診の病院で診断書を書いてもらえない場合、以下の手段を考慮してください。
- 他の医療機関に依頼:
現在通院している医療機関や別の病院で診断書を書いてもらうよう依頼する。
特に、障害の症状が明らかであり、他の医師からの診断書でも問題がない場合が多いです。 - 医療ソーシャルワーカーに相談:
病院内にいる医療ソーシャルワーカーに相談し、適切な対応をアドバイスしてもらう。
ソーシャルワーカーは、患者の権利や福祉に関する知識が豊富であり、診断書の取得に関するサポートを提供することができます。 - 年金事務所に相談:
年金事務所に直接相談し、他の方法で証明書類を揃える方法について助言を求める。
年金事務所のスタッフは、必要な書類や手続きについて詳細な情報を提供し、代替の証明方法を提案してくれる場合があります。 - セカンドオピニオンの活用:
他の専門医にセカンドオピニオンを求めることで、新たな診断書を取得する。
これにより、異なる視点からの診断が得られるため、より詳細な診断書が作成される可能性が高まります。 - 地域の福祉相談窓口の活用:
市区町村の福祉相談窓口に相談する。
地域の福祉サービスは、障害者支援に関する多様な情報とリソースを提供しており、診断書の取得に関するアドバイスやサポートを受けることができます。